オメガバースパロ?の高緑です。設定をお借りしていますが、果たしてオメガバースと呼んでいいのかちょっと悩む内容です……。隣の芝生が青く見えるお話。いろいろ拙いのですが寛容な心でご覧いただけると……。
特殊性癖?に分類されるんですかね、オメガバース。なので苦手な方はご注意ください~!でも正直オメガバースである意味はないただのエロですw
※注意
・性的描写を含みますので18歳未満の方は閲覧しないようにお願いします。
・オメガバースパロと呼んでいいのかちょっと微妙な感じのオメガバースパロです。
・オメガバースを否定する意図とかはありませんのでご了承ください。
以上のことをご理解の上、ご覧ください。
校正がちょっと甘いかもなので、そのうち手を入れるかも…。
もしも、男だったら、女だったら、アルファだったら、ベータだったら、オメガだったら。
絶対に手が届かないからこそ、羨ましく映るものなのだ。
カーテンの隙間から僅かに差し込む月光を反射して、ぼんやりと青白く浮かび上がる肌。それがひくひくと揺れるのを、高尾はうっそり目を細めて見下ろした。
「いー眺め」
自分の下で熱く荒い吐息を零す緑間は、四つんばいの体勢を晒している。けれども、既に四肢に力はない。上半身をくったりとシーツの海に投じていた。かろうじて高尾が支える腰だけが上がり、なすがままに尻を突き出す格好は酷く淫猥だ。さながら、怯える子羊じみた姿は、高尾の嗜虐心をそそった。
「挿入れるよ」
ぬるぬると尻のあわいに硬く滾った熱をこすり付けて、期待に今か今かと震える窄みへゆっくりと埋め込む。
「ひっ……ぁあん……!」
爛れた水音が薄暗い室内に響くにつれ、欲に溺れた嬌声がひっきりなしに漏れた。艶を帯びたテノールは、甲高く裏返っていた。
随分と理性の箍を外さなければ聞けないよがり声は、高尾の耳に心地よい。
普段であれば抵抗を見せる隘路も、今日ばかりはすんなりと高尾を受け入れてくれる。充分過ぎるほどぬかるんだそこはあっけなくほぐれ、ぐちゃぐちゃに濡れそぼっていた。
ぐっと奥へと押し進めれば、柔らかく熟れた内壁はうねり、滑り込む高尾の熱をきゅうきゅうと嬉しそうに締め付ける。肉棒を更に深くへ導き、物欲しげにいやらしく蠢いた。
高尾は、くすりと笑った。
「真ちゃんのナカ、滅茶苦茶絡み付いてくるね」
「ぁあ、ば……かぁ!」
「あー……たまんねー」
「ふぁぁ……!」
そんな囁きにすらも感じてしまうのか、緑間の胎内はきゅんっと仄かに蠕動する。素直じゃない性格と裏腹に、身体はこんなにも正直で可愛い。もちろん、緑間の天邪鬼な性格も、高尾のお気に召すところなのだけれど。
性器を全て収め、一度息を整えてから、腰を使いじっくりナカを撹拌してやる。高尾に絡み付く内部は温かく、あまりの気持ちよさに脳髄が痺れそうだ。
「あ……、ぁあ、ひぃあ……!」
手淫と口淫で既に2度達しているというのに、緑間の疼きは全く収まる様子を見せない。それどころか、いっそう悦んで熱を追い上げていく。とろとろと極上に蕩けた後孔は、高尾を包んで離さない。
「だ、め……っあぁ…あ、ああっ! やぁあ……ま、てぇ……!」
「……駄目なの?」
こういう時の緑間の『駄目』は、羞恥からくるものだから、額面通りに受け止めてはいけない。けれども、意地悪も兼ねて、高尾は素直に律動を止めてやる。
ふわりと緑間から漂ってくる甘い匂いが、さっきよりも強く鼻腔を掠めた。高尾を誘惑する、緑間のフェロモンだ。いっそ暴力的なほどに色濃く香ってアルファを惑わせる一般的なオメガのフェロモンとは異なり、清楚さすら感じさせる控えめなそれは、とても緑間らしい。すんと鼻を鳴らして吸い込めば、胸いっぱいに恍惚が広がる。もっともっと欲しいと、際限のない欲望が渦巻いていく。
うっとりとする香りに誘われ、背を折り曲げて、高尾は綺麗に浮いた緑間の肩甲骨へと顔を寄せた。
ちゅ、ちゅとしなやかな背筋に口付けを落としていく。うっすらと浮かぶ汗を、舌を這わせて舐め取る。高尾の舌も、燃えるように熱かった。興奮して煽られているのは、何も緑間だけではない。
そんな些細な愛撫ですら、緑間には性感を掻き立てる材料にしかならないのだろう。ひくんひくんと、過剰なまでに背が跳ねる。その振動でナカを自ら刺激してしまい、緑間は悪循環に陥ってしまった。
鈍い快感を逃がすように、緑間は弱々しく首を振る。花緑青の髪が枕に擦れて、さらさらと音を奏でた。
「ふぁ、あ、……っあん……や、じらさ……でぇ……っ!」
「ふはっ! 駄目っていったり、焦らすなっていったり、どっちよ。んもー、ワガママなんだから」
シーツに埋めていた顔を僅かにもたげ、肩越しに振り返る緑間は、すっかり蕩けきっていた。
伏せられた豊かな睫毛は、潤んだ翡翠から溢れる涙をぱちりと弾く。白い肌が余すことなく桃色に染まり、熱に浮かされた顔は酷く淫らで。はくはくと、金魚のように開閉し吐息を零す唇から覗く舌が、鮮やかなまでに赤く色付いている。口の端から零れた唾液は、だらしなく顎を伝う。拭う余裕すらない。
高尾の鼓動が、ひときわ高鳴る。とっぷりと快楽の水底へ堕ちた緑間は、視覚だけでこんなにも高尾を高揚させる。
ぺろり。気が付けば、とびきりの食材を前に舌なめずりをしていた。
「えっろ……」
体重をよろよろと支える腕が、生まれたての小鹿のように小刻みにわななく。かろうじて上半身を僅かに持ち上げているが、すぐにでも崩れ落ちてしまいそうなほど、緑間は骨抜きになっていた。恵まれた体躯も、あれだけ鍛え抜かれた筋肉も、この場では全くの役立たずだ。
「たかおぉ……あついのらよぉ……!」
我を忘れて高尾を見上げてくる緑間の瞳は、助けてくれという懇願と共に、明らかな欲望の色を孕んでいた。
普段はストイックで、性的な匂いなど一切させない清廉潔白な緑間が、今はぐずぐずに溶け切って高尾を求めてくる。体内を焼く熱は緑間の理性を奪ってしまい、ただただ与えられる快楽に酔っていた。
こんな艶めいて乱れる緑間を見られるのは自分だけなのだと思うと、高尾の背筋をぞくぞくとえもいわれぬ情動が走る。下半身がずしりと重みを増した。
オメガには、ヒートと呼ばれる発情期がある。数ヵ月に一度、数日間の周期、自分の意思とは無関係に、オメガは男女問わずセックスのための身体の準備が整う。神が作り賜いし、抗えぬ種の生存本能に組み込まれたシステム。オメガが繁殖の性と呼ばれる由縁だ。その間のオメガは常に欲情し、増大したフェロモンが、誰彼かまわずアルファを誘う。まるで芳しい蜜に誘われて花へと群がる虫みたいだと、高尾は皮肉げに口角を上げた。
「……ほんっと、やんなっちゃうね……っと!」
「~~っ!? ひぁあ……っ!」
「真ちゃん、こんなにえっちになっちゃってさあ……。なぁ、そんなに気持ちイイ? もうトロっトロになってるじゃん」
揺さぶりを再開し、叩きつけるようにして無遠慮に奥を抉る。角度を変えて穿てば、ぱんっと肉同士がぶつかり合う。強弱をつけて、緑間の弱いところを何度も的確に擦った。
「やぁあ、こわ……こわいぃ……! たかお……たか…ぁあ!」
「大丈夫だって。オレが一緒なんだからさ。もっともっと、お前の本能を曝け出せよ、な?」
いつも以上に無遠慮に高まってしまう身体に、緑間が幼子のように怯えを口にする。
腰骨の辺りをさすって宥めてやるものの、ぐりぐりと内部をかき混ぜる手は止めない。やがて、僅かに残っていた思考をも白く染めた緑間は、身も世もなく身悶えた。
緑間が感じれば感じるほど、高尾も張り詰めるばかり。呼吸は興奮に荒く乱れている。余裕なんて、とうの昔にぶっ飛んだままだ。
ぐっと更に広げられたナカに、緑間がひっと喉を鳴らした。
「あっあっ……おっきくしちゃ…やぁあ……!」
「……ああもう、ほんっと、真ちゃんクソ可愛いっつの!」
「やらぁ……あっ……! あっ、たかお、たか……やぁ……ぅ!」
高尾の形にうっすらと膨れた緑間の腹を、徐になぞってやれる。綺麗に割れた腹筋が羞恥を見せるかのように慎ましく反応を返す。従順な様子に、高尾はご満悦だ。
「なぁ、わかる? お前のここに、オレが挿入ってんの」
「あっ、あぁ……アっ、たか……」
「ちゃんと、オレを感じてる?」
「ひぁ、あ……たか……で、いっぱい、なのらよぉ……!」
緑間はこくこくと必死に首を縦に振った。高尾の指先は腹筋を辿り終え、緑間自身をじっくりと滑り上る。期待にひくひくとか細く震えるそこは、先走りと吐き出した精液が混じり、びしょびしょに濡れ、解放の時を待っていた。
「上出来。もっともっと、オレでいっぱいになって」
「あっ……あっ、らめぇ、おく、や、きちゃ……っぁあ!」
喉を僅かにしならせた緑間は、身体を小刻みに痙攣させている。締め付けが殊更きつくなり、高尾もそろそろ限界だ。
情交の際、アルファがオメガのうなじを噛むのはマーキングに当たる。自分のものだと、周囲へ見せ付けるための印。アルファにマーキングされたオメガのフェロモンは、番以外への効力を失う。
アルファとオメガは、常に運命の番を本能で探している。運命の相手へ永遠の証を刻み込むのは、さぞかし気分がいいことだろう。
内側へと打ち込んだ己をくびきとするなら、噛み痕はさながら相手を縛り付けるための鎖か。
「頭のてっぺんから爪先まで全部、お前を愛していいのはオレだけだぜ」
緑間は、一生自分のものだ。どろりともたげた独占欲に、高尾は緑間の上半身をぎゅうと抱き締めた。ぐっと腰を進め目一杯緑間の尻と密着し、最奥を穿つ。
視線の先には、白く浮かんだ緑間の綺麗なうなじ。高尾は背をいっぱいに伸ばし、そこへがぶりと噛み付いた。
「あ、あ、イっちゃ……~~~っ! ああっ!」
きつく噛まれた弾みで、喜悦に瞳を細めた緑間は、びくんと大きく身体を震わせた。
「……くっ!」
内壁がひときわ収縮し、高尾をきつく絞り上げる。緑間の欲がビュルっと弾けると同時に、高尾も熱い白濁を緑間のナカへと思い切りぶちまけた。
***
翌朝。盛大に上がった混乱の叫びに、食事の準備をしていた高尾は、苦笑しながら寝室へと顔を出した。
「あっ、あれは何なのだよ……っ!」
目を覚ました緑間は、シーツを被って蓑虫状態でベッドに篭城を決め込んでいた。シーツの隙間から、やってきた高尾を睨み付け、近寄るなと威嚇してくる。これでは手負いの獣だ。だが、格好が格好だし、顔は真っ赤になっているし、涙目だしと、全くもって迫力はない。
白いシーツからちらちらと覗く扇情的な情事の痕跡が、否応もなく夕べの激しさを思い出させる。少し調子に乗って付けすぎたかもしれない。
昨夜は、緑間の意識がなくなるまで抱いた。緑間も高尾も、過去最高記録を打ち立てる程に吐精した。乱れまくった互いに煽り煽られてしまい、身体の許すままに繋がったのは無理もない話だ。高尾はこれ以上もなくすっきりしたけれども、受け入れる側の緑間はそうもいかない。
前後不覚になっていたものの、緑間はこの様子からして記憶が飛んだわけではなさそうだ。己の痴態を、まざまざと思い出しているのかもしれない。
散々泣かせてしまったせいで、緑間の目元は赤くはれぼったい。落ち着いたら、冷やしてあげたほうがいいだろう。
「あっ、あんな……オメガみたいな……! ベータのオレに、発情期など来るはずがない。高尾、一体何をした!?」
動揺のままに、緑間は高尾に抗議をした。
そう。ベータである緑間と高尾が、昨夜、まるで発情期のオメガとアルファであるかのような振る舞いを見せたのには、カラクリがある。
「えー? えっちなお薬を少々?」
「しね!!」
「でも、気持ちよかったっしょ?」
にやにやと笑って揶揄をすれば、返答の代わりに枕を投げつけられる。コントロールは抜群だったが、いかんせん身体に力が入らないせいだろう。枕はあっけなく高尾に受け止められた。
枕をベッド脇に置き、高尾はチェストから小瓶を取り出した。中には、薄いピンク色の液体が半分程入っている。
「これ使うと、ベータでも発情期のオメガみたいになっちゃう特別製なんだって」
緑間に見せるように掲げて、軽く揺らす。とぷんと、液体が小さく波打った。
それは、オメガの発情期とフェロモンについて研究、解析を重ね開発された新種の媚薬だった。これを体内に取り込んだ者は、発情期のオメガに近い形で激しく欲情してしまう。一時的にベータでも微量のフェロモンを撒き散らすことができるだから、随分と優れものだ。
勿論レシピは企業秘密。発情抑制の原理は解明されているのだから、誘発剤として転用するのも可能なのだろう。
媚薬の通称は、誰が呼んだか【運命ごっこ】。皮肉めいた名称で呼ばれるそれは、現在、ベータの間で流行している、アルファとオメガのセックスを模したプレイの名前でもある。
「……悪趣味なのだよ」
「だけど、真ちゃん、こういうの好きだろ?」
「高尾」
緑間はむっと眉を顰めた。
「……お前は、オレがオメガだったら良かったとでも?」
「そういうわけじゃねーけど」
高尾の言葉は本心だ。ベータは普通故に、ベータ性なりの利便がある。
オメガのように、発情期に振り回されることも、性犯罪に巻き込まれることもない。未だ根強く残る一部の侮蔑意識から、虐げられることもない。
アルファのように、腹の探りあいに利用されることもない。オメガのフェロモンに大きく惑わされることもない。
それどころか、同性同士でも番になるアルファとオメガおかげで、世間はベータの同性愛にも寛容だ。同性同士だからと、謂れのない迫害を受けることも、白眼視されることもない。
世界は、最大多数であるベータに優しい。己の価値観を変える程のセンセーショナルな出来事は、なかなか起きない。その代わり、ベータはぬるま湯のようにゆったりとした毎日を繰り返すのみ。
それでも、いや、だからこそ。
「ただ、たまに羨ましくなるだけ」
高尾はふ、と自嘲気味に目を細めた。
「だって、合法どころか運命なんて計り知れないもので、お前を縛れるじゃん」
アルファとオメガは、運命に導かれ恋に落ちる。生まれながらにして、予め決められた存在と――抗えないほどの絆を持った、ただ一人の相手と――いつか出会う。
それは、アルファ、オメガにだけでなく、ベータにも昔から語り継がれる、幸せの形の王道だ。
一握りの種にだけ発現する、御伽噺のような運命。それを潜在的に羨むのは、ベータによくあるジレンマだった。
ぱちぱちと目を瞬かせた緑間は、やや呆れ混じりにため息を付いた。
「……お前は本当にバカだな。ベータにだって、運命はあるというのに」
「へ?」
緑間の言葉に、高尾はぱちりと目を瞬かせた。ベータの運命? そんなの初耳だ。
高尾が疑問符を浮かべているうちに、緑間は被っていたシーツを首元まで下げ、顔を顕わにする。そして、真っ直ぐ真剣な視線で高尾を貫いた。
「確かに、アルファとオメガのように本能で縛ることはできない。それでも、ベータであり、何より男同士であるオレたちが、こうして恋に落ちた。どれだけの奇跡の末に、今オレたちが共にいるのか、わかるか?」
「真ちゃん……」
「オレがお前を選んだ。お前もオレを選んだ。それこそ、運命の番にも負けないくらいの運命だと、オレは思うのだよ」
アルファとオメガに定めがあるように、ベータにだってきっと運命は待ち構えている。
運命というのは、誰にだって案外身近なところに存在しているものなのだ。ただ、それを運命なのだと、奇跡なのだと、気付いていないだけで。
「ぶっは、お前らしい考え」
「フン。運命は、待っているだけではやってこない。自分から動いて掴み取らなければ、誰にとっても存在しないと同義なのだよ」
だから、緑間はいつだって人事を尽くすのだ。
そうして、緑間と高尾は巡り合い、幾重にも連なる糸から互いの手を取ったのだから。
これを運命と言わずして、何と呼ぶのか。
「おい、高尾。ここに座れ」
ぽん、と傍らのベッドを緑間はぽふぽふと叩く。大人しく従い、高尾は緑間の隣に腰を下ろした。
緑間は、高尾に僅かに背を向け、しゅるりとシーツを肩まで落とす。
そこには、昨晩、散々盛り上がった痕が生々しく浮いていた。緑間の肌は白いから、よりいっそう目立つ。
襟足の辺りには、紫に変色した高尾の歯型がくっきりと刻まれていた。鏡にでも映さない限り、緑間からはうなじの噛み痕をきちんと見ることはできない。だが、肩口に散らされたキスマークの多さからおおよその状況を察し、緑間は柳眉を吊り上げた。ちっと行儀悪く舌を打つ。
「遠慮なく噛みやがって……! じくじく痛むし、こんなところでは隠し通せない。どうしてくれるのだよ」
「あはは……ごめんね?」
緑間の色気に当てられ暴走した自覚はあるので、高尾は申し訳なく身を縮めこませる。さすがにうなじの痕は、誤魔化すのは難しいだろう。寝違えたとでも言って、湿布と包帯でカバーするくらいか。
高尾が手当てを考えていえると、突如緑間の上半身がぐらりと傾いだ。無理がたたったのかもしれない。
高尾が慌てて支えると、不意に緑間の指先が、戯れるように高尾の襟足をなぞった。背筋に震えが走る。
息を吸い込む音が、微かに耳に届く。それと同時に、がぶりと力いっぱい噛まれた――うなじを。
「……っいってえぇええ! し、んちゃぁ、あ、いってえ!!」
「フン、その程度で騒ぐな。良い気味なのだよ」
がぶがぶと、緑間は気が済むまで高尾の肌に噛み付いた後、刻んだ痕を知らしめるように舌先でちろりと舐めた。緑間が鼻を鳴らして嘲笑う。完全に意趣返しだ。
高尾が噛まれた箇所に手を当て涙目になっていると、緑間は蠱惑的に笑みを深めた。再び自らのうなじを晒し、高尾が付けた噛み痕へと愛おしそうに指を這わせる。何とも色めいたそそる姿に、高尾は思わずごくんと生唾を飲み込んだ。
「全く……そんなにオレを縛る証が欲しいなら、オレの全てなど、いくらでもお前に差し出してやるのだよ」
「ああ、もう、参りました……! 漢前すぎんだろ!!」
高尾は降参とばかりに、がくりと緑間の肩に顔を埋めた。情けなく緩んでしまう顔を緑間から隠したのは、せめてもの矜持だ。惚れた男にああまで言われて、嬉しくならないはずがない。さっきから、頬が熱くてたまらない。うっかり泣いてしまいそうなのを、ぐっと堪える。緑間がいなかったら、ベッドにごろごろと転がって、悶えていただろう。
ベータなのに、緑間の本気はオメガ並の破壊力で高尾を魅了する。いや、それ以上かもしれない。ちょっとだけ勃ったのは、多分緑間に気付かれているだろう。
「……さっきの、訂正。真ちゃんがベータでほんっと良かった。オメガだったら、お前のフェロモンに悩殺されて抱き潰しているわ、絶対」
「そうか?」
きょとんと小首を傾げる姿は、小悪魔か何かだろうか。緑間自身に自覚がないのが末恐ろしい。
もし緑間がオメガだとしたら、今以上に男女かまわず言い寄られるに違いない。ただでさえアルファに見られがちな緑間はモテるから、恋人関係にある今ですら嫉妬の念が消えないというのに。
高尾は、独占欲にかられて、ぎゅうっと緑間にしがみ付いた。
緑間は満足げにくつくつと喉を鳴らすと、高尾の髪を優しく撫でてくる。
「まあ……オレとてアルファとオメガが羨ましくないといったら嘘になるが」
「ブッフォ!! やっぱり!!」
「煩い、黙れ!」
ごん、と頭頂部に衝撃が走った後、緑間は高尾の耳元に唇を寄せ、低く、うっとりと囁いた。
「……たとえオレがオメガだったとしても、きっと運命のアルファはお前なのだから問題などないのだよ」
「真ちゃんさあ……。そうやって畳み掛けるようにデレるのやめて……。心臓持たないから!」
「ざまあみろ」
ああ、もう本当に降参だ。
うううと言葉にならない言葉を呻いて、緑間の肩口で力なく項垂れる高尾の背に手を回し、緑間は上機嫌で口角を持ち上げるのだった。
「ところで、これ使った真ちゃんエロいし素直だし滅茶苦茶可愛かったから、アルファとかオメガとか関係なくまた使ってもいい?」
「~~~~っ!! ぼ、没収に決まっているのだよ!!」
「えええええー……。だけど、すげー悦かったデショ?」
「……バカっ!!」
こうして、媚薬の小瓶は、緑間の手によって回収される。
けれども、破棄されることなく高尾の目からは隠され、存在感とプレッシャーと、ほんの少しの好奇心を緑間に与えることとなる。
――やがて、小瓶の中身が綺麗になくなってしまうのは、そんなに遠くないお話。