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二宮スタンプ

04 25 *2017 | text

ワートリ・二宮隊小話

続き


 ふふふ、と随分上機嫌な犬飼が満面の笑顔を浮かべているので、荒船と穂刈はおやと顔を見合わせた。

 土曜日、防衛任務。今日のシフトは三輪隊、二宮隊、荒船隊に混成部隊という組み合わせだ。学校が休みなこともあり、土日の任務は学生たちにシフトが割り当てられることが多い。

 大概どこの部隊も任務前に打ち合わせや伝達を行うので、任務開始よりも早めに作戦室へ集合する。

 連れ立ってボーダーへとやってきた荒船と穂刈も、作戦室へと行く前に飲み物を購入すべく、まずはラウンジへと足を向けた。そこで見つけたのが、一人テーブルを陣取って、にやにやしている犬飼の姿だった。

 当の犬飼はというと、なにやらカードらしきものを色々な角度に掲げては眺めている。時折、表情が嬉しそうに崩れる。普段から仲間内でもテンションの高い犬飼だったが、あまりにも楽しげな様子が駄々漏れすぎて、妙に荒船たちの気を引いた。

「よぉ。嬉しそうに何見てんだ、犬飼」

「おはよう。無駄に元気そうだな、今日も犬飼は」

「あっ、荒船に穂刈じゃん。おっはよー! って、えっ、これ? 気になる? 気になっちゃう?」

「気にはなるが……不審者みたいだぞ、傍から見たら」

「さっきから穂刈が、ひっでぇ!」

 荒船と穂刈からの指摘に、随分ともったいぶった言い方をしてカードをひらひらと振ると、犬飼は目を細め唇に手を当てた。これはだいぶウザい。この場に影浦がいたら、眉間に盛大な皺を寄せて、「犬がウゼぇ!」と叫んだことだろう。

 荒船は、犬飼の頭を小突いて先を促した。

「へいへい。気になるからとっとと晒せよ」

「へへー。じゃじゃーん」

 そうして犬飼が披露して見せたのは、一般的な店舗で使われるようなポイントカードだった。愛らしい作りのカードには、30個のマスが区切られている。

 ありふれたポイントカードと少し異なることと言えば、マスの中に無骨な「二宮」という印が、ずらりと並んでいるところだろう。もう一度繰り返そう、まさしく事務的で可愛さの欠片もない印鑑が、燦然と押されていた。

 カードは、あと一つで全て埋まるという状況だった。

 頭の中が、疑問符でいっぱいになる。荒船と穂刈は、怪訝そうに眉を顰めた。

「何だこれ」

「二宮スタンプです」

「二宮スタンプだぁ!?」

 思わず反芻して声を荒げた二人に、犬飼はふっふっふと得意げに口角をつりあげた。

「二宮隊ローカルルールで、防衛任務とかランク戦の活躍に応じて、スタンプが1個溜まるんだ~」

「まんまポイントカードだな、お店の」

「二宮隊、そんなことやってるのかよ……。意外だ。あの二宮さんが、よく許可したな」

「ははっ。拝み倒したに決まってるじゃん」

「お前が発案者か! てか、お前以外にいるわけなかったな!」

「隊員に甘いな、二宮さんは……」

 なお、カード自体はオペレーターの氷見がわざわざ作成してくれたらしい。道理で、手作りの割に、きちんとしたレイアウトになっているわけだ。二宮印鑑が、せっかくの可愛らしい印象を全てをぶち壊していたが。

 しかし、これは案外面白い試みではなかろうかと荒船は思う。

 こういった類のスタンプカードは、マスを全部埋めるとおまけ的な商品がもらえたり、値引きされたりと、ちょっとしたサービスが受けられるはずである。

 動機は不純かもしれないが、特に退屈になりがちな日々の防衛任務に対するモチベーションを上げるには、結構適切かもしれない。

 ということは、だ。要するに、二宮がご褒美を出すということと同義である。よく二宮からの同意を得られたのものだと、目の前にいるコミュニケーションお化けである犬飼を思わず尊敬する。穂刈の言う通り、ああ見えて二宮が隊員に甘いという部分もあるけれども。

「全部溜めると何が出るんだ?」

 犬飼は良くぞ聞いてくれましたといわんばかりに、にんまりと笑みを深めた。

「なんと! 二宮さんに、料理のリクエストができるのです!」

「……は?」

 予想外の犬飼の回答に、先ほど以上に意味がわからなくて、荒船と穂刈はぽかんと目を白黒させた。

「作れるのか、料理を。二宮さんが……?」

「まあ、普通知らないよなあ。俺もつい最近まで知らなかったんだけど、二宮さんってば、結構料理できるらしいんだよね」

「えっ……つまり二宮さんが、オリーブオイルをかけるってことか?」

「するのか、ドヤ顔で追いオリーブを……」

「ちょっ、まっ……! オリーブオイルかける二宮さん、俺も見てみたいんだけど。似合いすぎ……ぶふっ!」

「想像できんな、黒のおしゃれなエプロンをつけている姿しか」

「二宮さん、出来栄えはいかが~?(裏声)」

「NINO'S キッチン」

「もうやめて! 俺の腹筋のライフはゼロよ!」

 畳み掛けるような荒船と穂刈の言葉を受けて、ぶは、と犬飼が盛大に吹き出した。よっぽどツボに入ったのだろう。腹を抱えて、テーブルに撃沈しひくひくと全身を震わせ悶えている。

 呼吸困難にまでいきそうな程笑っている犬飼を宥めて事情を聞くと、どうやら二宮が防衛任務の深夜帯シフトの時に、夜食を作っているというのだ。当然、深夜シフトに学生たちは組み込まれないから、知りようがない。

 大学生以上の者のみがその存在を認識し、そして運がよければご相伴に預かることのできる、通称『二宮夜食堂』。

 基本的に深夜帯シフトの時に自分用しか作らないので、同輩ですら滅多に食べることができないレアものらしい。二宮の、二宮による、二宮のための夜食というあたりが、いかにも二宮らしい。

 しかしながら、これが結構美味しいのだと、犬飼が話を聞いた来馬からのお墨付きである。二宮は、何故か来馬には甘かった。

「ねー、気になるだろ」

「ああ、気になるな……。どんな料理を作るんだ、二宮さんだぞ……」

「食べてみたくなるな、二宮さんの料理を……」

「だろだろ!?」

「まあ、気になるのは、料理だけじゃないけどな」

「わかる」

 三人は神妙な顔で頷きあった。犬飼が駄々をこねたのもわかる。

 何せ、二宮の手料理というだけでも、随分ハードルが高いのだ。そもそも徹底的にこだわるか、壊滅的にできないか。そんな想像をされがちな二宮が、日常的に料理をしているなんて、大方の人間は予想しないだろう。加古と並んで、別にセレブでも何でもないのに、やたらとそういう印象をもたれがちなのが、二宮匡貴という男である。

 興味本位もあって、食べてみたいという欲求がむくむくと湧いてきてしまうのは道理だった。

「なるほど、その願いがもう少しで達成できるかもしれないというわけか。そりゃあ、喜びたくもなるな」

「そういうこと。だから、俺、今日ははりきっちゃうからヨロシクね~」

 犬飼はこれ見よがしに力こぶを作って、やる気のあるところをアピールしてくる。

「楽できるな、今日の防衛任務は」

「まあ、敵さんがノコノコと出てきてくれたら、だけどな」

「それななんだよなー」

 勿論、近界民が襲撃してこないに越したことはない。だが、どうせ嫌が応にも奴らは出てくるのだ。ならば、ビンゴがかかっている犬飼のシフトの時に、出てきてほしいものである。

「……っと、そろそろ事前打ち合わせの時間だわ。お迎えが来ちゃった」

「ああ、辻か」

 ラウンジから廊下の交差地点で、犬飼を見つけた辻が小さく手を振っている。犬飼はそれに応じて、椅子から立ち上がった。

「祈っていてやろう、無事スタンプが溜まることを」

「サンキュー、穂刈」

 飲んでいたジュースの空き缶を、犬飼はゴミ箱へとぽいと投げる。綺麗な弧を描いてゴミ箱へと飲み込まれたそれに、「ナイッシュー」と声をあげた。

「んじゃ、また後でね」

 サムズアップをした犬飼は器用にウィンクを一つ投げると、辻の元へと駆けて行く。お前はアイドルかよ、と思わず突っ込んだ荒船に非はないはずだ。

「さて、俺たちも行くか」

 二宮隊に倣うわけではないが、荒船隊もそろそろ打ち合わせを始める時間だった。半崎や加賀美たちは、とっくに作戦室に到着している頃だろう。

 目的の飲み物を購入し、踵を返せば、隣の穂刈がやけにもの言いたげな視線を向けてくる。荒船は苦虫を噛み潰したように、小さく舌打ちをした。

「……おい、穂刈。何だよ、その目は。うちではやらねえからな」

「ちっ」

 流石に料理はできないし、他のおねだりを叶えるにしても、荒船の負担が大きくなるので恒常的にやるのはあまり現実的ではない。ただ、突発的にちょっとくらいなら何かやってもいいかもしれないという思惑は、荒船の胸の内にしまっておいた。

 隊員たちの驚く姿が、見たいからである。多分、二宮が許可を出したのも、荒船と似たような気持ちなのかもしれない。



 その日の防衛任務は、待望の近界民を犬飼が鮮やかに駆逐することとなった。



* * *



 1回の防衛任務につき、近界民を倒したら1スタンプ。

 ランク戦にて、二宮が認める活躍を見せたら1スタンプ。

 氷見は、任務とランク戦2回のオペレートにつき1スタンプ。

 30個スタンプが溜まったら、リクエストした料理を二宮が作ってくれる。

 二宮スタンプのポイントルールは、単純明快だ。



「やったー! 二宮スタンプ初達成」


 最後のマスに二宮印を押してもらって、犬飼は両手を挙げて喜んだ。残りの三人が、「おめでとう」と口を揃え、パチパチと拍手を贈っている。

 そんな彼らを見て、二宮ははぁとため息を漏らした。どうしてここまで盛り上がるのか、さっぱりわからないといった風だ。

「本当に溜めるとは思わなかった」

「溜めるに決まっているじゃないですか」

「俺も、あと少しでいっぱいになりますよ」

「あたしはもうちょっとかかりそうだなあ……」

「……酔狂だな」

 スタンプ片手にわいわいと賑わう隊員たちに、どことなく腑に落ちない様子で二宮は首を傾げている。

 それもそうだろう。何せこれの報酬は、二宮の手料理である。二宮にとっては単なる毎日の家事の一つに過ぎないことを、これほどまでに待ちわびられているのだから。

「いやー、思ったより時間かかったわ」

「近界民が襲ってこない平和な時期がありましたからね」

「防衛任務だと、鳩原がガンガン持っていくんだもんなあ。遠距離攻撃反則すぎだろ」

「だって、あたしは防衛任務じゃないとスタンプほとんど稼げないんだもの……」

「……お前ら、個人ポイント稼ぎより熱心じゃないか?」

「当たり前ですよ。個人ポイントよりも、大事なことってあるじゃないですか」

「まあ、任務もランク戦もきちんとこなしているからいいのか……?」

 犬飼はぐっと拳を握って、力強く肯定した。他の皆も同意とばかりにうんうんと頷くので、二宮は気おされ気味である。

 苦節約二ヵ月強。必ずしも防衛任務で近界民が出てくるわけではなく、また犬飼が仕留められるとも限らない。なかなかスタンプ収集が捗らず、早く二宮の手料理を食べてみたいという欲求ばかりが先行して、ムキになっていたところもあった。

 それも今日で漸く報われる。

 全てスタンプで埋まったカードを握り締めて、子供のようにへらへらと幸せそうに笑う犬飼にほだされたのか、はたまた単に諦めたのか、二宮は促すようにあごをしゃくった。

「それで、何にするんだ。言っておくが、そんなに手の込んだものは作れんからな」

「はーい。えっへへ、最初に作ってもらいたいものは絶対これがいいなって思っていたんですよね」

 犬飼がおねだりしたメニューに対して、二宮はそのくらいならばとあっさり首肯した。



* * *



「やっぱり、シンプルイズベストでしょうか」

「でも、二宮さんって、結構凝り性ぽいですし……」

「いっそ、キャラ弁レベルまで突き抜けてくるかもしれないよ? だって、二宮さんだもの」

「おい、腹筋に直撃させるのやめろよ、鳩原」

 学業も隊長業も忙しい二宮に、平日に作ってもらうのは、流石に時間的に負担になる。都合の良い日を決めてもらったところ、指定されたのは次の日曜日。防衛任務に就く前の昼食で、という算段になった。

 こんなにも一週間が酷く長く思えたのは、生まれて初めてかもしれない。あまりにもみんなが気もそぞろに浮かれているので、二宮から、「待てくらいできんのか」と呆れられること暫し。

 そんな風にして、漸くやってきた約束の日曜日なのだ。果たして二宮がどんなものを持ってきてくれるのかと話のタネにしながら、一同はそわそわと二宮の登場を待ちわびていた。別段早く来ているわけでもないのに、二宮の到着がやたらとじれったく感じられて、みんなで苦笑する。

 やがて、いくばくもせずに作戦室にやってきた二宮は、抱えた大きな荷物をテーブルに置いた。

「ほら、作ってきたぞ。ホットドッグだ」

「ヒャッハー! 待ってました!」

 犬飼は諸手を挙げ、表情を輝かせた。

 そう。犬飼が二宮に要求したメニューは、ホットドッグ。――彼の好物だった。

「……これ全員分ですよね? もしかしなくても。良かったんですか?」

 氷見が鞄の大きさに目を丸くして、二宮に尋ねた。

「犬飼の分だけ作ろうが、他の分もまとめて作ろうが、労力は大して変わらんからな」

 ふん、と二宮が鼻を鳴らす。まさか全員が手料理のご相伴に預かれるとは思わず、色めき立つ。各人昼は食べてこなくていいという通達に、ちょっと期待をしていたこともあって、嬉しさもひとしおだ。

「二宮さん大好き!!」

「さすが二宮さんです!」

「おい、抱きつくな。邪魔だ」

 きゃーっと感極まった声を上げた犬飼と辻が、ふざけ半分で二宮の両サイドにじゃれ付く。二宮は仏頂面のまま、落ち着けとばかりにぺしりと二人の頭を叩いた。

 犬飼と辻から解放された二宮は、嘆息しつつ持ってきたバッグに手をかけた。いよいよお披露目である。

 二宮の一挙一動に、わくわくと期待に満ち満ちた8つの視線が注がれる。どうにもやりにくそうで、二宮は眉間に皺を刻んでいた。

 バッグから中から一つ一つ丁寧に取り出され、二宮の手によってテーブルの上に並べられていく料理に、一同はごくりと息を飲む他なかった。

「おお……凄い……」

「すごーい!」

「なにこれ凄い!」

「二宮さん凄いです!」

 次々と重ねられる貧弱な語彙に、二宮が頭を抱えそうになっていたが、凄い以外の表現がどこかに行ってしまったのだから仕方あるまい。

 二宮が作ってきたホットドッグは、見た目からしてもう既に美味しそうだった。自分の好物だからというのもあるが、犬飼は自然と口の中に涎が溜まっていくのを実感した。

 全員が携帯電話を取り出し、写真を撮る。すかさず、犬飼はボーダー謹製のトークアプリケーションで、仲の良いグループに写真を流して自慢をした。どうだ、旨そうだろう。二宮さんの手作りだ。そうコメントを添えると、あっという間に『ずるい! って二宮さん!?』『二宮さんwww って二宮さん!?』『おいしそう! って二宮さん!?』という、羨みやツッコミ、困惑に溢れた文字が並んだ。

 パンに切れ目を入れてボイルしたソーセージを野菜と共に挟み、マスタードとケチャップをかけるだけ。作るのが比較的簡単なホットドッグではあるが、二宮は軽くアレンジを加えていた。

「ミ、ミートソースがかかっている、だと……」

「くうっ、チーズとオニオンのコンビネーションなんて最強すぎるでしょ……!」

「オムレツ入っているのもあるんですね……。やだ、美味しそう~!」

「何だかお店のみたいですね」

「ヤバい、めっちゃヤバい」

「うわー、早く食べたい!」

 テンションが上がってしまうのも無理はない。

 半分に切ってあるため、一つ一つのサイズはそう大きくないものの、オーソドックスなホットドッグから始まり、チーズ、ミートソース、オムレツなどなど、ウィンナーと共に挟まれているものの種類が豊富だ。

 別に分けられたタッパーには、辛めなのが少し苦手な女性陣に配慮したのか、チリソースらしきものも添えられている。もしかしてこれも手作りなのか。二宮隊隊員一同は戦慄した。

 難しいものは作れないと二宮は豪語していたが、想像以上に手が込んでいる。

 結論として御用達のパン屋で購入したものだとわかったのだが、パンまで自分で焼いていたりしないよな、いやでも二宮さんならやりかねないと、ちょっとしたアイコンタクトを交わす羽目になった程である。

「そのままでも食べられるが、トースターで焼いたほうが旨いぞ」

「辻ちゃぁん!」

「食堂からトースターごと借りてきます!」

「待って! 辻くん一人だと、食堂のおばちゃんと交渉できないでしょ。あたしも着いていくよ」

「ひっ……、そっ、そうでした。 鳩原先輩、お願いします!」

 二宮の言葉に、すかさずコンビネーションの良さを嫌というほど発揮して、辻と鳩原が食堂へと走った。時折、太刀川が餅を焼くのに利用するため、トースターは許可を取れば持ち出し可である。

「あっ、じゃあ私は、コーヒー淹れますね!」

 氷見も、鼻歌交じりにばたばたと給湯スペースへと向かう。

 もはやピクニックみたいなはしゃぎようで、二宮隊隊員は手際よく昼食の準備を始める。犬飼は今回の功労者のため、手伝いは免除である。

「やったー、ホットドッグ祭りだー!」

「大げさな……」

 異様なほどの隊員たちのテンションに、二宮はあっけに取られていた。

「大げさじゃないですよ。正直、こんなに凄いの作ってもらえるとは思っていませんでした。ありがとうございます。滅茶苦茶嬉しいです!」

 満面の笑顔で誉めそやす犬飼に、二宮も満更ではなさそうだ。


「まあ、曲がりなりにも、ご褒美だからな」


 その証拠に、二宮は口角を上げると、珍しく僅かに笑みを零した。





 トースターでぱりっと焼かれた甘めのパンと、ウィンナーが口の中で弾けて、控えめに言わずとも美味しい。

 ケチャップとマスタードのノーマルをそのままがぶりと行くのもいいが、チリソースをかけてちょっと辛めに調整するのもまた格別。具が載っているものは言わずもがな。付け合せのキャベツを、カレー粉で炒めたものがあるのも憎い。色々な味を、飽きずに食べられる工夫がされていて、一口食べるだけで違った発見がある。

 二宮隊一同は、目を輝かせながら、夢中でホットドッグを頬張っていた。

「美味しい~。幸せ~」

「こんなに食べたら太っちゃう……! けど、美味しすぎて駄目……!」

「ひゃみちゃん、諦めも肝心だよ……?」

「鳩原先輩が、いい笑顔!」

 まさしくやめられないとまらないといった感じで、幸せオーラをまきちらしながらも、鳩原と氷見が悟りを開いたようにふふ、と小さく笑った。

 その傍ら、体重増加とは無縁の運動量を誇る犬飼と辻は、欲望の赴くままにホットドッグを駆逐していく。

「辻ちゃん、チリソース頂戴」

「犬飼先輩、ミートソースのにチリソース混ぜても旨いですよ」

「えっ、マジ!? やってみる!」

 食べ盛りの高校生というのもあるが、次々とホットドッグが消えていく。普段小食気味の鳩原や氷見も、積極的にありついているのだから、どれだけホットドッグをお気に召したのかよくわかるだろう。

 二宮も、自分の隊員たちが大喜びで手料理にありついているのを見て、どことなく上機嫌だった。あまり変わらぬ仏頂面も、硬質な雰囲気も、いつもよりずっと柔らかい。

 二宮隊一同が、賑やかにホットドッグに舌鼓を打っていると、バタバタバタという激しい足音と共に、作戦室の扉が開いた。

 ゆっくりとスライドする自動ドアへともどかしげに手をかけ、無理やり室内に身体をねじ込んできたのは、攻撃手一位の太刀川だった。

 慌てた様子の太刀川に、一同がぽかんと視線をやる。太刀川は、わなわなと拳をふるわせていた。

「二宮食堂が開店したと聞いて!」

「お前にやる分はないぞ、太刀川。あとそのネーミングは何なんだ」

「何だか冷やし中華始めましたみたいですね」

「それを言うなら、寧ろ二宮ベーカリーですよね。今の状況ですと」

「お前らも、俺の名前で変なことを言うんじゃない」

「はーい」

 太刀川と二宮のやり取りを聞いた鳩原と辻が、どこかズレた感想を述べる。

「ええええー。二宮隊だけズルい! ズルいズルい!」

「お前が駄々をこねたって、全然可愛くねぇぞ。気持ち悪い」

「二宮酷い!」

 二宮からすげなく断られ、床に転がっていやいやしそうな勢いの太刀川に、二宮隊全員が苦笑する。戦闘時は誰よりも頼りになるのに、それ以外の時にはどうにも締まらず情けない。

 大方、辻から出水へと流れた画像を見て、ここに飛び込んできたのだろう。太刀川は、幸運なことに何度か二宮の作る夜食を食べたことがあったから、彼の料理の旨さを知っていた。

 食べかけのホットドッグを置いた犬飼は、おもむろに椅子から立ち上がる。そして、拗ねた様子で、床に膝を抱えてうずくまっている太刀川の肩をぽんと叩いた。


「太刀川さん、駄目ですよ。これは二宮隊の特権なんですからね」


 ちょっと不敵ないい笑顔を浮かべて、犬飼は問答無用に諦めろと促す。太刀川は一瞬ぽかんと目を瞬かせるものの、真顔でぐっと親指を突き出した。

「じゃあ、俺も二宮隊に入る」

「誰がお前なんかを入れるか!」

 太刀川の戯言は、二宮による容赦のない蹴りが決まったことで、あっけなく却下された。




 こうして、二宮の料理が一斉にボーダー内部に知れ渡ると共に、二宮スタンプを真似たおねだり制度が各部隊で流行したとかしなかったとか。

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