というわけで高尾さんお誕生日おめでとうございまーす!!ピクシブさんは緑間さんの誕生日投稿に合わせて23:59投稿しますが、サイトは0時投稿で。どうせこのサイト見てる人殆どいないし(笑)。
ということで題材はドッジボールになりました。割と出オチ感がパないです。途中草生えてますがギャグなのでご容赦下さい。相変わらずモブさんにオリジナルで名前がついてますので、ご了承ください。ルールは公式ではないので相変わらずふんわりです(ダブルパスやファイブパスなどは無視してます)。チーム分けは阿弥陀しました。
楽しんでいただけたら幸いです!
遅くまで行っている自主練習から帰宅して、緑間はリビングのテーブルに自分宛の封書が置かれているのに気がついた。
何だろうと封書の送り主を確認して、緑間は目を瞠る。そして柔らかく微笑を浮かべた。
* * * * *
7月6日に行われた緑間誕生日前祝缶蹴り以来、秀徳高校男子バスケットボール部では、スタメンの誕生日毎に30分から1時間程度のレクリエーションが行われるようになった。
意外にも息抜きとして行った缶蹴りが部員にウケ、またたまにやりたいという意見がちらほら出たのである。
しかし息抜きとはいえ、総出で何かをするには、バスケ部は少々人数を抱えすぎていた。そのため頻繁に行うわけにも、他の部活に迷惑をかけるわけにもいかないので、中谷監督と主将の検討の結果、緑間の例に倣って、スタメンの誕生日に執り行うくらいならまあいいだろうということになった。誕生日が偏った場合にはご愛嬌。
バスケットボールは基本的に5人で行う競技であり、チームプレイとはいえ数少ないレギュラー枠を争うことになる。つまり部員全てが、試合のコートに立つことはできないスポーツだ。部員たちは仲間であると同時に、スタメンを狙うライバルでもある。特に秀徳高校は全国強豪のチームだ。レギュラーになれた者、なれない者、思うところは様々であろう。
だがバスケとは関係のない遊びを部員全員で行うことにより、そういった軋轢やプレッシャーから一旦解放されるのか、縦横の繋がりやコミュニケーション、連携が強化されたり、意外なところで部員の能力が発揮されたりと、ひっそり良い効果も見受けられている。
誕生日にかこつけているので、緑間のおしるこタワーが基準となり、祝われる側は祝う側が任意で100円程度のカンパをし、当日プレゼントをもらえることとなった。
今では、誕生日、祝って欲しけりゃスタメン取れが合言葉になっているほどである。
都度行われるゲームとプレゼントは、当事者でないスタメンが話し合いで決める。当日になるまで、ゲームとチームの組み合わせとプレゼントは秘密の一発勝負だ。
先月行われた主将富士の誕生日祝ドロケイでは、ダイスの女神様が行ったチーム分けがあまりにも偏りの激しい酷い有様で、ほぼ上級生泥棒チームVSエースと相棒、一部の2年と1年生警察チームの様相を呈し、最終的に警察フルボッコという状態になった。それもこれもペース配分を間違えた2年生スタメンコンビが、体力を消耗して早々に倒れ伏したせいだったのは余談である。
このような経緯があっての11月21日。今日はスタメンの一人である高尾の誕生日だ。
選ばれた舞台は体育館。カラーのビニルテープで、バスケコートとは違うサイズのラインが引かれている。凡そ12メートル四方の枠二つが、フロアに描かれていた。
「ちーっす。おお! コートができてる! 今日は何やるんすか!?」
体育館入り口で浮かれた声が上がる。外周をこなし軽くアップを終わらせてきた、本日の主役である高尾和成とエース緑間真太郎の登場に、準備をしていた部員たちが一様に顔を上げて、挨拶を返してきた。
「よう。何だと思う?」
にやにやしながら寄ってきた富士の姿を眺めて、高尾はぴっと彼が小脇に抱えた白いボールを指差した。
「……ずばり、バレーボールっすか?」
「はずれ。ネット張ってねーだろ」
「ええ!? じゃあどうしてバレーボール持ってるんすか?」
高尾が首を捻ると、富士は、だよなあと呟いて、ははっと声を上げた。
「今日行うのはドッジボールなのだよ。そのバレーボールは、今日使うボールなのだよ」
隣で緑間が、かちゃりと眼鏡のフレームを押し上げながら、高尾の疑問に答えた。
ドッジボールで利用するボールは、公式のものがなければサイズが似ているバレーボールで代用できるのである。
尚、ボールを貸してもらうため、男子バレー部に富士が説明に赴いたところ、いい笑顔で「男バスバスケしろ」と返されたのも、そろそろ様式美になってきている。
「ドッジとか、また小学生以来のものを。やっべ、オレちょー得意っすよ!」
「だろうな。お前のその眼は厄介なのだよ」
「避けの和成って呼ばれてたんだぜ!」
「なんだそりゃ」
高尾が自慢げに腰に手を当てて胸をそらすのだが、珍妙な二つ名に富士がぶはっと吹きだした。
笑われた高尾は、ちえっと不満そうに唇を尖らせる。が、そこは大坪のあとを引き継いで主将になった富士だ。高尾の頭をぐりぐりと撫でて、にかっと相好を崩した。
「なら、今日は避けの和成の本領を発揮して見せてくれよ」
「……おお、任せてください!」
高尾の機嫌を上手に上げてから、富士は緑間に向き直る。
「おい、緑間。チーム表作ってきたか?」
「ぬかりないのだよ。今回、阿弥陀の神様はあらぶらなかったので、バランスの良いチーム分けになってます」
「ぶくく。前回、ダイスの女神様のあらぶりが酷かったもんなあ」
「そもそも、何故サイコロでチームを分けたのだよ、お前は……」
前回の苦い結果を思い起こして眉間に皺を寄せながら、緑間は手に持っていた二つ折りの紙を富士に渡す。
すると、そのタイミングで監督の中谷が体育館に入ってきた。
「やあ。みんな揃っているかい?」
「お疲れ様でっす! 先輩方もお疲れ様でっす」
中谷の後ろに控えている、大坪、木村、宮地に向けて、高尾は手を振りながらにやりと口角を釣り上げた。それに返して三人は手を上げた。
OB組も案外楽しかったのか、缶蹴り以来、コーチの名目を兼ねてレクリエーションが開催されるたびに訪れてくれる。部員たちも、全国三位を勝ち取った際のメンバーに練習を見てもらえるのを楽しみにしていた。何より慕っている先輩たちが、頻繁に顔を出してくれるのは純粋に嬉しかった。
前回のイベントは、みゆみゆのライブと重なってこられなかったため、宮地だけ会うのは約3ヵ月ぶりになる。
「誕生日おめでとう、高尾」
「よ! おめっとさん」
「今日も果物差し入れに持ってきたから、沢山食えよ」
「あざっす!」
そんなやりとりをかわす高尾とOB組の傍らで、面子が揃ったのを確認して、富士がぱんと手を叩き「集合!」と声をかけ、方々に散らばっていた部員を集める。
「いいかー。高尾以外はもう知ってると思うが、今日はドッジボールやるぞー」
「ふむ。発案は誰だい?」
「オレです」
中谷の問いに、緑間がはいと手を上げる。
「真ちゃんなの!?」
「ああ。やったことがないから、やってみたかったのだよ」
「「「ええ!?」」」
緑間の発言に、部員一同が盛大に驚きの声を上げた。あまりの視線の集中砲火に、緑間は双眸をきょとんと見開いている。迫力に押されて、若干腰が引け気味だ。
「ドッジっていったら、小学校の遊びの鉄板だろ!?」
「その……小学生の時はピアノがメインの生活だったので、突き指するのが恐くてできなかったのだよ……」
緑間が目元を微かに朱に染めて、ぷいと顔を背けてそわそわと眼鏡を弄る。その仕草に高尾がぴくりと反応し、両手を組んで右頬の脇で掲げると、あざとく小首を傾げた。
「やだ、真ちゃんの初めてのドッジを、オレの誕生日に捧げてくれるだなんて、和成嬉しい!!」
「何故そう意味深な解釈をするのだよ!?」
「ていうかドッジやったことない真ちゃん可愛い!!」
「どこをどうとれば、可愛いに繋がるのだよ!?」
どーんと緑間の背中に突進し、高尾は緑間の腰に手を回して抱きしめた。ぐりぐりと額を背中に押し付けてくる高尾に、「離すのだよ!」「やだ!」と攻防が行われる。
目の前で繰り広げられるソフトホモ劇場を軽くスルーして、富士は司会進行用のメモに視線を落とす。他の部員たちも、我々は何も見ていないと緑間と高尾のことを意識の外へと除外している。バスケ部員のホモ耐性とスルースキルは、確実にレベルを上げていた。
「じゃあ、初めてのドッジでうきうきしている緑間のためにも、軽くルールを説明するぞー」
「おちょくらないで下さい!!」
周囲から恰好の弄りの的となったことに憤慨した緑間だったが、どうどうと大坪が肩を叩いて宥めて、それで漸く腹の虫を収めたようだった。その脇で、緑間にセクハラを働いていた高尾は、宮地にしばかれていた。
「今日は事前にやれないって申告したヤツを抜かして、26対26のチーム制ゲームな。スタートは内野が20人、外野が6人。最初に外野だった6人だけが、敵内野にボールを当てた時に内野に入れるってことで。内野でボールに当たったヤツは外野になるけど、人数多いし外野は最低6人、最大15人まで。使うボールがバレーボールだからって、レシーブするのはノーカンな。あと当たり前だけど、わざと顔面狙うんじゃねーぞ。ルールは以上。公式のゲームじゃねーから、煩いことはなしだ。楽しんで適当にやろうぜ」
富士からの説明に、一同がこくりと頷く。それを見回して、富士は中谷に顔を向けた。
「監督から何かありますか?」
「そうだね。いつも言っているけど、パスで慣れているとはいえ、突き指などの怪我には充分注意するんだよ」
レクリエーションなので、基本的に進行は生徒サイドに任せている。口うるさくとやかく言うこともないと、中谷が毎回注意を促すのは唯一つ。羽目を外して怪我をするなということだけだ。中谷からの言葉に、部員一同はいと唱和する。中谷は宜しいと一つ首肯して、後ろに下がった。
「次にチーム分けな」
富士が手にしていた紙を開いて、振り分けを発表する。緑間がバランス良いと言っていた通り、互いに戦力にそう大差ないチームになっている。Aチームには主将富士、緑間、宮地、スタメンCの谷川、Bチームには高尾、大坪、木村、スタメンFの筑波、PFの岩木が入っている。Aチームにウサギさんの、Bチームにくまさんの落書きが書いてあったのは、そっと富士の胸の内にしまわれた。
「オレと真ちゃんが……別チームだと……!?」
アナウンスされた内容に、高尾が驚愕する。これまでのレクリエーションで、なんだかんだとエースと相棒の二人は同じチームだった。今回それが初めて分かれたのである。
「……まさかこんなところで、真ちゃんと対決しちまうとはな」
「フン。オレに勝とうなどとは、100年早いのだよ」
ふっと、翳りのある表情で緑間を見据える高尾に対し、緑間は受け立つとばかりに顎を軽く上げて唇に薄く笑みをはく。
高尾にとってはある意味因縁の対決に、二人が視線を交わらせながらバチバチと火花を散らせるが、すぐに耐え切れず高尾が腹を抱えて吹きだした。
「おい、真ちゃんドッジ初心者のくせに何ドヤってんだよ、ぶっはあ」
「煩いのだよ!」
高尾にからかわれ、緑間はむっと眉間の皺を深くした。案外、緑間は変なところでノリが良かった。
こうして、各々割り振られたチームごとに分かれ、OB三人組の軽いアップを兼ねて与えられた10分間の作戦会議時間を経て、秀徳高校バスケ部対抗ドッジボールは開幕した。
ピーとホイッスルが鳴り響く。それぞれ内野と外野に分かれ、位置に付いた。
ジャンパーは、Aチームが谷川、Bチームが岩木だ。Bチームは身長的に大坪が出るほうが有利なのだが、そこはOBだからとしゃしゃり出ることはせず、後輩たちに譲った次第である。
「では始めるぞ。いいかね?」
センターサークルで、審判を買って出てくれた中谷がバレーボールを手に両者へと問いかける。二人はこくりと頷いて腰を落とした。視線はボールに注がれている。
「ティップオフ」
ひゅっと直上へと放たれたボールにタイミングを合わせて、谷川と岩木がジャンプする。ゆらりと落ちてくるボールを制したのは、やはり身長的に有利な谷川だった。普段からジャンプボールに出ているので慣れたものだ。
「ナイス、谷川!」
沸き立つAチームの中で、弾かれたボールをキャッチしたのは緑間だ。Bチームの面子は、ボールを取られた時点で即座にエンドライン近辺まで下がっている。流石に反応が早い。
奇襲はできなさそうだと判断した緑間は、例に倣ってボールを外野へのパスに切り替える。
パス回しで撹乱し、相手の隙を窺うのはドッジボールの基本だ。但し、まだ内野の人数が多いため、対面へパスを通すにしてもそれなりにボールを高くあげなければならない。練習で強めのパスは慣れている連中だ。下手に弾道の低いパスを出した場合、逆にキャッチされてしまう可能性が高い。
今回作成したコートは一辺が凡そ12メートル。屈強な男子バスケ部20人あまりをいっしょくたに収めるには、それなりの広さが必要だったため、公式のコートよりも些か広めに取られている。
バスケのセンターラインからエンドラインは、14メートルになる。つまり、現在のコートサイズは、緑間が最も得意とするシュートレンジの範疇だった。
だから緑間はついいつものくせで、スリーポイントシュートを打つように構えてしまった。相向かいに丁度ゴールがあったのも、悪かったのかもしれない。
対面にいる外野の先輩に向けて、緑間はボールを放つ。
しかしバレーボールとバスケットボールは、大きさも重さも異なる。調整はしたものの、予想以上に軽くて緑間の手元が狂った。ありていにいえば、ボールがすっぽ抜けたのだ。
「あ」
ただでさえ緑間のシュートの高度は、天井に届くほど高い。それがすっぽぬけたせいでコントロールが利かず、ボールは天井に向けてゆっくりとループを描き――
すぽっ
最高点に達したと同時に、天井の梁と梁の間にはまった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
しーんと、水を打ったようにコートに沈黙が落ちる。
あんぐりと口を開けて、みな一様に天井を見上げた。ボールは綺麗に鉄骨と鉄骨の間に挟まってしまっていて、所在なげにオブジェと化している。
「ぶっはあああああああああwwwwwwwwwwwww」
ついには高尾が我慢できずに、吹き出しながらその場に倒れ伏した。それを皮切りに、残りの部員たちへも笑いが伝播していく。次々と脱力し、コートの上に膝を付く者、バンバンと床を叩く者、咽る者、必死に声を殺して笑う者と様々だ。高尾など、臆面もなくゴロゴロと転がりまわっている。
「しっ……しんちゃ……ボールが……スポーンって……ふ、ふひぃwww」
「わっ、笑うんじゃないのだよ!」
一番この展開にぽかんとしていたのは緑間本人なのだが、周囲の哄笑に我に返って羞恥に顔を真っ赤にする。流石に全員に爆笑されては、緑間とて恥ずかしくてたまらない。とはいえ自分が招いたことなので、ぶるぶると拳を握り締めて、現在の状況に耐え忍んでいる。
暫くして、笑いから回復した宮地が、ばちんと緑間の頭に平手を入れた。
「つーか馬鹿か! パスが高すぎんだよ、3P撃ってんじゃねーよボケ、轢くぞ!」
「まさしくwwwオレのシュートはwww落ちん! ってことですね! ぶへああwww」
高尾の一言で、また何人かがコートに身を伏した。高尾本人も自爆して、腹を抱えて悶えている。
そんな高尾に緑間が駆け寄って、踏みつけようとしているのを、「待て待て!」と木村が後ろから羽交い絞めにして抑えた。
「上手いこと言ってんじゃねーぞ、高尾。マジで天井から落ちてこねーよ、アホ!」
「ひぃ……ひぃ……ぐ、ぐるじい……ふはあwww」
「離してください、木村先輩! 今日こそこいつに引導を渡してやるのだよ!!」
「おい、高尾が笑いすぎて呼吸困難になってるぞ」
「落ち着け、緑間! でもって高尾は放っておけ、大坪」
段々とカオスな様相を呈してきたコート内に、宮地がちっと舌打ちをして、忍び笑いしている富士に向けて顎をしゃくった。
「おい、ボールどうすんだよ。富士、予備の用意はねーのか?」
「はい、これは想定外で。バレー部にもう一個借りて来ましょうか?」
「そうだな」
天井に挟まってしまったのでは、設備点検の時にでも業者に依頼して取ってもらうしかあるまい。
富士と宮地が話を進めていたところ、無事高尾に2、3発蹴りを入れて鬱憤をはらしたおかげか、すっきりした顔の緑間が二人の会話に割って入った。
「それはいりません。オレが取ります」
「緑間?」
緑間は眼鏡をくいっと押し上げると、フロアの隅に置かれていたバスケットボールの籠からボールを一つ取り出した。だむだむ、と床に二度ボールを打ちつける。そして、その場でシュート体勢に入った。
ひゅっとスナップをきかせて、いつもより強めにボールを撃つ。バスケットボールは高く上空へと舞い上がり、梁に挟まっていたバレーボールを直撃した。反動でバレーボールが外れ、横たわっていた高尾の背中の上に見事落ちた。
「ぐはっ! オレ、今日誕生日なのに酷い仕打ち……」
「楽しい誕生日で何よりなのだよ。ほら、いつまで寝てるんだ。さっさと立て」
「うえーい」
緑間の言葉に破顔して、高尾はむくりと起き上がった。その間に、緑間はフロアをころころと転がっていったバスケットボールを回収し、籠に戻す。ざわついていた部員たちも、富士と中谷が声をかけて収めた。
「それじゃあ仕切り直しと行こうか。ボールはBチームからの開始でいいかね?」
「はい」
「……すみません、主将」
「気にすんな、初心者!」
珍しくしょんぼりと謝罪をする緑間の肩をぽんぽんと叩きながら、富士はいい笑顔で容赦なく初心者ネタを引っ張った。
* * * * *
「浅間、アウト!」
「くっそ!!」
ゲームは白熱している。勝負は拮抗。一人が当たれば一人を当て返すという乱打戦になっていた。
特に目まぐるしい活躍を見せているのは、予想通り高尾だった。とにかく当たらない。今回は鷹の目の使用を特に禁止しなかったため、背後から奇襲をしても、ひょいとかわされてしまうのだ。
互いに内野は、人数が半分まで減っている。密度が薄くなった分動きやすくはあるものの、逆を返せばボールを当てるのが難しくなってきたということだ。
床にバウンドしたボールをすかさず拾い上げ、宮地がお返しだと反撃する。放たれたボールは高尾目掛けて飛んでいくが、ひらりと避けられてしまう。
「ったく高尾、いい加減当たれよ、うぜぇ!」
「そんなに簡単に当たっちゃ、面白くないっすよっと!」
速攻でリターンされたボールを、身体を反転して高尾がキャッチする。すかさず外野に放り、パス回しの末のアタックを、今度は富士が受け止めた。
「谷川!」
Bチームの内野が下がっていたので、富士が外野へとパスを出す。谷川から外野同士でボールがやりとりされ、内野の緑間へとボールが届く。素早いパスに翻弄され足を取られた木村が、ほんの少しだけ逃げ損ねた。そのチャンスを見逃す緑間ではない。
「もらったのだよ!」
「ぐっ!」
緑間が投げたボールは、木村の右腕を捕らえた。木村もキャッチを試みたのだが、やはり後方へ下がりながらの体勢だったせいか、取り零してしまう。当たったボールは、そのまますぐには落下せず、ぽーんと軽く浮き上がった。ファンブルだ。まだボールは死んでいない。
「間に合え!」
木村は勢い余って尻餅をついてしまい、セルフアシストが叶わない。近くにいた高尾が、代わりにアシストに走り出す。
右手を伸ばして、どうにかボールをキャッチする。ギリギリ掌で受け止めれたボールに、ほっと笑顔を浮かべた瞬間、運悪く高尾が木村の爪先に躓いてしまった。
「うおっ!?」
高尾がバランスを崩してたららを踏む。このまま高尾がボールを落としてしまえば、ダブルアウトになってしまう。それはさせまいと根性で踏ん張ったのだが、重心がおかしくなったせいか、軸足を中心にぐるりと一周回るような形になってしまった。勿論ボールはきちんと掴んでいないので、図らずしも遠心力の付いたボールは、高尾が止まった途端、腕を振りぬいた反動で掌から離れた。
「なっ……!?」
が、回転がかかったことで加速したボールは、緑間の脇横を凄い速さですり抜けて行く。そのまま誰にも当たることなく飛んでいったボールは、Bチーム側の外野も速度を殺しきれずキャッチに失敗して、入り口ドアに当たって転々と跳ね返った。
「うおー! すげー!」
何だ何だと部員たちがざわつく中、旋回した余勢でその場に蹲った高尾が、偶然とはいえ剛速球を投げたことに浮かれている。
「なあなあ! 今の、黒子のパスみたいじゃね!? なんつったっけ!?」
「サイクロンパスだったか」
「そうそうそれそれ!!」
緑間が、以前試合でカウンターを食らった黒子の必殺技を告げると、高尾は大仰に頷いてみせた。高尾は立ちあがって、その場で軽く手を開き、しきりに腰を捻っている。
零れ球を拾いにいった後輩がコートに戻ってきて、ゲームが再開した。内野にパスが回ってくると、ボールを手にした高尾は、どこか企みを孕んだ瞳をにんまりと細めた。
「えーっと、こうやってー?」
腰を落とした高尾は、腕を広げて再びぐるりと身体に回転を加える。しかし今度は逆に勢いをつけすぎて、手を離すタイミングを誤り、あらぬところへとすっぽ抜けてしまった。ボールは暗幕に引っかかり、ぽすんとギャラリーに落ちた。
「ありゃ!?」
「高尾おおおおお!」
「あっは、失敗☆ すんません、オレ取ってきます」
「何をやってるんだ、高尾」
Bチームの総ブーイングと窘める大坪に、高尾はてへっと後頭部に手をやりながら、ギャラリーへ上がる鉄梯子へと駆け出す。
「いやあ、さっきちょっと面白かったんで。ボール小せえし、キセキとかの技、真似できるかなーってつい!」
その一言に、秀徳高校バスケ部全体が思わず反応した。
――必殺技とは、かくも男心をくすぐるものなのであろうか。
秀徳高校は決して馬鹿ではない。寧ろ都内でも有数の進学校だ。在籍する生徒は基本的に優秀な者が殆どなのだが、真面目が馬鹿をやろうとすると、全力で馬鹿をやる流れになってしまうのは、やはりその勤勉さ故なのかもしれない。
要するに、ボールを回収して高尾が引き返してきた後のゲームは、悪ノリ三昧の流れになっていた。
「破壊の鉄槌(トールハンマー)!」
ぐるりと一回転しながらジャンプを行い、両手で豪快にアタックを試す者。
「流星のダンク(メテオジャム)!」
レーンアップよろしく、わざわざ遠い位置からジャンプをかましてシュートを放つ者。
「加速するパス(イグナイトパス)!」
外野から内野へのリターンパスを行う際、掌底でボールを返す者。
「型のないシュート(フォームレスシュート)!」
わざわざ体勢を崩しながら、外野へとパスを放る者。
何となく可能そうな人様の技パクりオンパレードである。そして残念なことに、大体が失敗に終わっていた。ついでに言うと、メテオジャムをやったのは宮地で、イグナイトパスは高尾である。
フォームレスシュートをかました部員は、床に蹲った情けない姿で「オレに勝てるのはオレだけだ」と青峰の黒歴史台詞をドヤ顔で発して、高尾の腹筋を崩壊させた。そしてへなちょこボールをカットした緑間から、手加減のないアタックをくらっていた。
「これじゃあ、トールハンマーとメテオジャムの区別があんまりなくないですか!?」
「もっとトールハンマーやるなら、回転いれろよ!」
「メテオジャムは、ジャンプ力足りなさすぎっすよ!!」
「イグナイトも全然加速してねー!!」
「そもそも型を崩して、バランスまで一緒に崩して倒れてちゃ意味ねーじゃん!!」
「海常の黄瀬は、良くこんな技をコピーできるな」
「おい、誰か赤司の真似してやれよ」
「しっ、そこは触れちゃ駄目だ!」
「ぎゃっはははははは。何だこのノリ、やっべ楽しい」
生真面目に上手くいかなかった箇所の指摘をし合うあたりが、愛すべき馬鹿の集まりである。
試行錯誤した結果、出た結論は「やっぱりキセキの世代ってすげえ」ということである。
みなの酔狂を呆れた様子で見ていた緑間だったが、暫く続けられたキセキの世代+αごっこにさすがに業を煮やして「当たり前なのだよ! 一朝一夕で出来たら、苦労はしていないのだよ!!」と、雷を落としたのは言うまでもない。
* * * * *
ぎりと歯噛みしながら、緑間がすれすれでボールを避ける。その表情は険しい。続けざまのアタックを、これまた身体を捻ってどうにかかわした。
試合は1対3の接戦までもつれ込む。Bチームは、高尾、大坪、筑波を、Aチームは緑間を残すのみとなっていた。
緑間は善戦しているものの、Bチームからの素早いパス回しと狙い撃ちに翻弄され、なかなかボールを奪い返すことができず、体力を消耗させられていた。
「くそ……っ!」
ひゅっと緑間の胸元を通り抜けたボールは、真正面の高尾の手へと渡った。緑間がはっと瞠目する。かかった、とでも言わんばかりに、高尾は愉しそうに口角を釣り上げた。
「悪ィな、真ちゃん。これで終わりだぜ!」
「……っ!!」
緑間がキャッチに備え、僅かに腰を落とす。が、高尾が投げたボールは、緑間の左脛を精密に直撃した。身長が高い分、どうしても下半身の防御がおろそかになりがちだ。そこをまんまと付かれた形になった。
ぽん、とコートにボールが転がり、衝撃でぐらついた緑間がその場に崩れ落ちる。
そこで試合終了のホイッスルが、高らかにこだました。Bチームの勝利だ。
「くっ……ぬかったのだよ」
喜びを露わにするBチームとは逆に、緑間は床に膝を付き、むうと唇をへの字に曲げて、悔しそうにどんと拳を押し付ける。
そんな緑間の前にひょいとしゃがみこんで、高尾はぽんぽんと肩を叩いた。
「いやいや、真ちゃんってばドッジやるの初めてじゃん。すげー頑張ったって!」
「……そうか? オレは人事を尽くせただろうか」
不安そうに見つめてくる翡翠の虹彩に、高尾はこくこくと頷いて、相好を崩した。
「どう、初めてのドッジは楽しかった?」
「……ああ、楽しかったのだよ」
高尾からの問いにぱちりと瞬きした後、緑間はほんのりと瞳を細め、唇を緩めた。
コートの周辺では、部員たちが終了したドッジボールについて、互いの健闘を称え、わいわいと歓談して賑わっている。高尾は蹲っている緑間に手を差し伸べ、その身をゆっくりと起こしてやる。するとどこからともなく取り出した長いサテンリボンを持って、富士が高尾と緑間の前に立った。
「さて、勝者の高尾には、お待ちかねの誕生日プレゼントだな」
そう呟いて、富士は何故か緑間にしゅるりとオレンジ色のリボンを巻きつけていった。嫌がるかと思いきや、緑間は意外にも大人しく富士に従っている。表情は仏頂面であったが。
「色々考えたんだけどさー。お前が一番喜ぶプレゼントっていったら、やっぱりこいつだろ?」
ぽんと富士に背を押され、緑間がよろけて一歩前に出た。
高尾の瞳と同じ色のリボンをかけられた緑間は、歯噛みをしつつも、居心地悪そうにもじもじしている。
まさしく男のロマン、誕生日プレゼントはリボンをかけた私というアレである。
高尾はすぐそこで起きている出来事に、信じられないと、素っ頓狂な声を上げた。
「ええっ、真ちゃんをもらっちゃっていいの!?」
「……負けたのだから仕方ない。貰われてやるのだよ」
驚く高尾からつんと顔を背けて、緑間はむっすりと腕を組む。つっけんどんな態度だが、照れているのか、その頬はうっすらと桃色に染まっていた。
「しかもバスケ部公認だなんて……やだ、和成嬉しい……! 緑間、大切にするよ。愛してる。結婚しよ」
「た、高尾……!」
恭しく緑間の白い手を取る。テーピングの巻かれた左手の薬指にちゅっとキスを落としてから両手でそっと包み込んで、高尾が凛とした表情で緑間に愛を告げる。周囲は部員からの拍手とおめでとうの嵐だ。
こうしてみんなに祝福されながら、高尾と緑間は一度顔を見合わせて、幸せそうにはにかむのだった。
「……っていう展開を妄想していた時期が、オレにもありました」
「何だその補正かかりすぎな超展開は、アホか! おい、木村ァ! パイナップル!」
「今日は持ってきてねーよ!」
木村の返答に宮地が不服そうに顔を顰めて、パイナップルの代わりに高尾の後頭部をごんと叩いた。
「オレを勝手にお前の妄想に巻き込むんじゃねーのだよ!」
流石の緑間も、高尾から一歩身を離す程度には引き気味である。そもそも図体がでかく、初心者の緑間が長くコートに残っていられるはずがなく、中盤以降あっさりとボールに当たりリタイアしていた。
試合の結果は、高尾の妄想とは裏腹に、Aチームの勝利に終わった。
最後は、高尾への集中砲火戦になった。鷹の目のせいで、アクロバティックにボールをかわす高尾をなかなか捉えることができず、高尾一人にヒットさせるだけで一体何分費やしたのかわかったものではない。ブリッジからバク転のコンビネーションで避けられた時には、お前は何故ジャ●ーズに所属してないんだ!と、困惑の叫びが上がったほどだ。外野から内野まで、Aチーム総出でパスを回し、端から見たら完全にいじめかといわんばかりに高尾フルボッコ状態である。最終的に高尾がバテて捕まり、宮地のアタックにあえなく撃沈して、ドッジボールは幕を閉じた。
ヘロヘロになった高尾は、コートに座り込んでぜーぜーと息を整えながら、緑間を仰ぐ。
「っていうかさー! オレの誕生日なんだから、花持たせてくれたっていいじゃん!」
「お前は手を抜いて欲しかったのか?」
「いや、全然」
高尾は真顔で手を振る。そしてがっくりと項垂れて息を大きく吐いた。
「あーくっそ、悔しい。でもすっげえ楽しかったー!」
「そうか」
だが即座に太陽みたいな気持ちの良い笑顔を浮かべた高尾に、緑間も眼鏡に手をかけながら、ふっと微かに唇を綻ばせた。
「じゃあ、そんな高尾にみんなからのプレゼントだ。誕生日おめでとさん」
高尾の頭に、背後から富士がぽんと紙袋を乗せる。頭に乗った物は、意外に、というか、完全に軽かった。
「えっへへ、ありがとうございまっす。うわー、何だろう!」
高尾はそれを受け取って、ガッツポーズを取る。他人の誕生日のプレゼントを考えるのも好きだが、こうやってプレゼントを貰うと一体何を選んでくれたのかとワクワクする。
プレゼントにしては些かそっけない包みを開け、中から取り出したものに、高尾は面食らうほかなかった。
「!?!?!?!?!?」
声も出ない。プレゼントを凝視したまま、高尾はぶるぶると身体を震わせている。予想外の反応に、緑間がいぶかしげに声をかけた。
「どうだ? 高尾。もしかして、気に入らなかったか?」
「し、しんちゃ……。こっ、これ……!!」
「ああ。お前が以前、欲しいと言っていなかったか?」
口をぱくぱくさせながら高尾が緑間に見せたのは、キラキラとしたホログラムが輝く一枚のTCGのカードだ。それは高尾が今、バスケ以外で夢中になってはまっているものだった。緑間にとっては何の価値もないものだが、高尾にとってはとてもレアリティの高いカードである。
「言ってた!! っていうか、これめっちゃレアカードなんだけど!! うああああ、えっ、えっ、マジ!? オレ、夢を見てるんじゃないよね!? 真ちゃん、ちょっと抓ってみてくんない!?」
顔を真っ赤にしてすっかり興奮さめやらぬ高尾に、緑間は遠慮なく頬を抓ってやった。びよーんと高尾の両頬が伸びる。適当なところで離してやると、高尾は情けなく眉をハの字に下げて両頬をさすった。
「いひゃい……」
「現実のようで何よりなのだよ」
「ほあああああああ、マジか! ありがとうございまっす!!」
それでやっと現実だと認識できたのか、高尾は奇声を上げながら、周囲のバスケ部員に頭を下げて感謝の意を表した。
カードを両手で大事に持ち中空に掲げて、高尾はまじまじと見つめ始める。終いには、じわりと目尻に涙が浮かび始めたのだから、その喜びは相当だろう。これだけ喜んでもらえると、プレゼントをあげた側としてはサプライズ成功だ。部員たちは感激に咽ぶ高尾を、にやにやと眺めた。
「つーか、これどうやって手に入れたの!? 滅茶苦茶難しいはずなんだけど」
「一人葉書を1枚書くだけだったから、50円で済んで安上がりだったのだよ」
「まさかの懸賞!?」
高尾と趣味を共にするクラスメイトが持っていた雑誌の懸賞に、たまたまそのカードが掲載されていたことを緑間が覚えていたのだ。元々このカードはレア故に流通量が少なく、オークションやショップなどでも、高校生の小遣いでは手に入れられないほど高値で取引されているとは高尾から聞いていた。これを当ててプレゼントにしたら、きっと高尾が喜ぶだろうと主将にもちかけ、高尾に内緒で部員に葉書を書いて応募してもらい、無事ゲットできたのである。
「なー。これ、もし当たらなかったら、オレへのプレゼントってどうなってたワケ?」
「勿論なしに決まっているだろう」
「ひどっ! そりゃねーよ!」
「良かったな、当たって」
緑間はそっけない。そんな緑間に肩を竦めて、富士がほくそ笑みながら肘で小突く。
「因みにそれ当てたの緑間だぜ? やっぱりおは朝パネェな」
「ちょっ、先輩!? それは言わないと約束したじゃないですか!」
「あー? 忘れてたわ」
すっとぼけた富士にまんまとばらされて、緑間が慌てふためいた。
ローカル雑誌ならいざ知らず、対象の懸賞は全国区の雑誌のものだ。しかも当選は1名のみ。いくら約50枚応募葉書を投函したところで、当たらないだろうと3年生スタメンたちは予想していた。そのため代用となる高尾の誕生日プレゼントをどうするか、いっそキムチでいいのではないかなどと相談していたところ、3日前に当選しましたと緑間がカードを持参してきたのである。
聞けば、おは朝が1位の日にラッキーアイテムを身に付け、ラッキーカラーである青のボールペンを利用して書いて投函したというのだから、人事を尽くした緑間の強運は末恐ろしい。
富士の発言に、高尾は目を輝かせると即座に身体を起こして、緑間へと身体ごと突っ込んで抱き付いた。倒れなかったものの、衝突の衝撃で緑間の息がぐっと詰まる。
「しんちゃああああああん!! ありがとう!! 愛してる!! 結婚しよ!!」
「だが断る」
「一刀両断! でもそんなところが好きっ!」
「こうなるから言わないで欲しかったのだよ!!」
怒涛の求婚から、高尾と緑間の攻防再び、である。緑間は高尾を引っぺがそうと躍起になるが、高尾は楽しげにぎゅーっと腰にしがみ付いて離さない。
「おらー、練習開始すっぞー! まずはパス練、そしたら2メンな!」
繰り広げられるソフトホモ劇場は、相変わらずスルーされる。手を叩きながら部員たちを促し練習メニューの指示を与えつつ、富士は借りたバレーボールをバレー部に返却するため、その場から華麗にとんずらを決めた。
緑間と高尾の周辺からあっという間に人がいなくなると、はぁ、とため息をついて、緑間が抵抗を止める。すっかり高尾に抱きつかれることにも慣れてしまった。
「高尾、離すのだよ。練習するぞ」
こつんと高尾の頭を軽く叩く。
「……おう」
するとほんの少しだけ名残押しそうに、高尾が体を離した。抵抗を見せるとからかいたくなるのか益々強く抱きしめてくるのだが、冷静に対応すると案外高尾は素直に解放してくれる。
「早くそれを片付けてこい。行くぞ」
フンと鼻を鳴らすと、緑間は高尾に背を向けて、さっさと部員たちの元へと足を向けた。
「ドッジボールも楽しかったが、やはりオレはお前とバスケがしたいのだよ」
――去り際に、そんな言葉を残して。
高尾の胸が震えた。緑間にとっては他愛無いかもしれない言葉が、どれだけ高尾を喜ばせるのか、きっと知らない。どんなプレゼントよりも、緑間からのその一言だけで、高尾の心は熱くなるのだ。
「おうよ!」
自然とこみ上げてくる感情のままに、くしゃりと表情を緩める。今日一番の笑顔を浮かべて、高尾は緑間の背中を追い駆け出した。
高尾さんお誕生日おめでとうございます!